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中学校外国語新学習指導要領を読み解く観点⑥:デジタル新教育課程下におけるデジタル教科書の位置付けと活用 東京国際大学教授山内 豊 山内 豊(やまうち ゆたか)先生 東京国際大学教授。東京学芸大学大学院とコロンビア大学大学院(Teachers College)修了。東京学芸大学附属大泉中学校,東京学芸大学附属高等学校教諭を経て現職。文部科学省の「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議の専門委員および審議会委員を務める。専門は,教育工学や心理言語学を活用した英語教育学。 はじめに  本稿では,デジタル教科書の導入の背景や位置付け,紙版教科書との関係を解説し,新しい学習指導要領のもとで,デジタル教科書をどのように活用していけるかについて具体的に紹介します。 デジタル教科書導入の背景と位置付け  新聞,雑誌,書籍がデジタル化されていく中で,デジタル化された教科書が2020年から導入されることが決まりました。これは,21世紀の高度情報化社会の中で,ICT(Information Communication Technology)を教育に積極的に活用していこうとする教育の情報化の流れが背景にあります。デジタル教科書が持つ可能性として,音声や動画情報を扱えるので,生徒たちにauthenticな英語の発音や言語の使用場面を生き生きと提示できることがあります。生徒はネイティブ・スピーカーの発音を聞きながら,自主的に発音や音読練習ができます。さらに,デジタル教科書をネットにつなげることで,生徒同士で情報を発信・受信するなどして,お互いの考えや意見を積極的に交換して相互理解を深めていく協働学習や国際理解プロジェクトを進めていくこともできます。このため,デジタル教科書は,新学習指導要領で重視されている「主体的・対話的で深い学び」を実現するために有効な学習ツールとして位置付けられています。 デジタル教科書と紙版の教科書の関係  デジタル教科書は,先に述べたように,学びを進展させる様々な機能を可能性として持っています。しかし,現在の日本の全国規模におけるインターネットやICT機器の導入の状況は,地域による差が大きく,高速通信回線環境が導入整備され電子黒板やタブレット端末などのICT機器が教育現場で積極的に活用されている地域もあれば,そうでない地域もあります。また,デジタル教科書の機能を充実させるほど,作成費用が増大していきます。デジタル教科書やタブレット端末などの購入に地方交付税を十分に回せない地域では,保護者の教材費としての負担が大きくなることが予想されます。これは,従来の義務教育の教科書を無償給付する方向性と大きくずれることになります。  このような背景があるため,今回の日本初となるデジタル教科書の導入では,地域差による支障を少なくし,保護者の教材費負担を軽減し,紙版の教科書しか使用できない地域の生徒たちが不利になることを少なくするため,デジタル教科書の内容(コンテンツ)は紙版の教科書と同一のものとすることになりました。これにより,デジタル教科書の質と内容が,検定を受けている紙版の教科書と同じに担保されることになります。さらに,デジタル教科書は紙の教科書と併用して使うことになり,特にデジタル教科書による効果が大きいと予想される学習場面で積極的に使っていくという位置付けになりました。デジタル教科書を使えない生徒たちが音声面で不利にならないよう,紙版の教科書からも音声が聞けるように,音声サイトへのリンク(URL)や音声再生できるQRコードを紙版の教科書に付加してよいという配慮もなされています。  なお,今回導入されるデジタル教科書そのものは機能的に限定されたものになる可能性が高いのですが,動画教材や電子フラッシュカードなどの市販のデジタル教材と一緒に使用することで学習効果が期待できる場合には,これらを有機的に組み合わせて工夫して使っていくことが重要とされています。 デジタル教科書の英語授業での活用  デジタル教科書が効果を大いに発揮できる可能性が高い科目の1つが英語科です。ここでは,新学習指導要領の5領域について活用例を紹介します。デジタル教科書に様々なデジタル教材やソフトウエアを有機的に組み合わせることにより,一層効果的な学習ができるようになるので,組み合わせた形で領域ごとに紹介していきます。 ❶「聞くこと」の指導  デジタル教科書は音声提示できるため,ネイティブ・スピーカーの発音を聞かせることができます。さらに,動画のビデオ・クリップの入ったデジタル教材を提示することで,生徒たちはどのような表現がどのような場面で使用されるのかを組み合わせた形で習得していけるようになります。最新の音声工学技術を使ったソフトと組み合わせれば,オリジナルの音声の速度を変えて聞かせたり,同じ英文を米語,英語,豪州英語,カナダ英語で聞かせたりすることもできるようになります。TOEICでは多様な英語の聞き取りが重視され,米語以外の発音によるリスニング・テストが含まれています。デジタル教科書・教材を活用することで,このような世界諸英語に対応できる聞き取り技能の基礎を培うこともできます。 ❷「話すこと[やりとり]」の指導  対話練習では,各生徒がデジタル教科書の音声をモデルに自分のペースで復唱やシャドーイング練習したあとに,生徒同士でペアになって対話練習をさせることができます。従来は教員が教室で一斉にコーラス・リーディングしてから対話練習に移ることが多かったのですが,教科書本文をスムーズに言えるようになるまでの練習量と時間は生徒によって様々です。デジタル教科書を活用することで,個々の生徒のペースに合わせた主体的な音声練習が進められます。さらに,音声認識機能を持つソフトウエアと組み合わせると,生徒が話しかけた英語をコンピュータが自動認識して,生徒に応答するような練習もできます。 ❸「話すこと[発表]」の指導  最新の音声合成機能を持つソフトを使うと,自分で書いたスピーチ原稿の英文をネイティブ・スピーカーの音声で自動的に読み上げてくれます。これを音声モデルにして,スピーチの練習を個別に進められます。さらに,デジタル動画を撮影する機能を使って,各生徒のスピーチを録画して,その後,生徒自身に録画を視聴させ,今後の改善点を考えさせる指導ができます。こうすると,教師やクラスメートからのコメントでプライドが傷つくこともなく,生徒自身が自分のスピーチの改善点を発見学習的に学べます。 ❹「読むこと」の指導  デジタル教科書では,新出単語をタッチするとその発音をすぐに聞けます。写真のように単語の意味やイラストも提示できる電子フラッシュカードと組み合わせて練習することで,綴り字と発音と意味を三位一体で習得できます。  日本人学習者には,読めるが聞けない・発音できない単 語がよくありますが,このような練習を行うと,リーディングだけでなくリスニングやスピーキングでも使える語彙数が増え,聞く・話す力の向上につながります。  さらに,英文を読み進めると既読部分が画面上から順に消えていくようなソフトと組み合わせることで,後戻りしないで直読直解できるようになり,速読力を高められます。耳に入る情報も次々に消えていくので,直聴直 解の練習にもなり,リスニング力向上にもつながります。 ❺「書くこと」の指導  デジタル教科書が使える環境では,生徒が自分で書いた作文やエッセイを生徒同士でネットを通して交換して互いに読み合い,コメントを付けて返信できるので,ライティングで自分の考えや意見を伝え合うという本来のコミュニケーションを実現できます。さらに,lang-8(http://lang-8.com/)のようなSNS(Social Network Service)サイトを使うと,自分の書いた英文をネイティブ・スピーカーがボランティアで添削してくれます。内容的に興味深いとネイティブ・スピーカーの反応もよいので,生徒はどんな内容で書いたら相手の興味を引いて読んでもらえるのかを真剣に考えるようになり,従来の和文英訳とは全く異なるコミュニケーション主体の作文学習を進めることができます。 おわりに  今まで紹介しましたように,デジタル教科書と他のデジタル教材やソフトウエアなどを組み合わせることで,コミュニケーション能力育成を目指したアクティブ・ラーニングを様々な形で進めることができます。教員には,授業のどの場面で,何をどう組み合わせるのが効果的かを考える「授業デザイナー」としての役割が大切になります。さらに,生徒がつまずいたときに適切に支援していく「学びの支援者」,海外との国際協働学習を進めるときの「プロジェクト・コーディネーター」としての役割も重要になります。デジタル教科書の導入は教員の創意工夫の幅を広げる絶好の機会と言えるでしょう。デジタル教科書のすばらしさや効果が世間に認められるようになれば,予算措置や日本全体のネット環境も改善され,高い機能を持ったデジタル教科書が教育現場に普及する時代が訪れることになるでしょう。 参考文献 文部科学省(2016)『「デジタル教科書」の位置付けに関する検討会議最終まとめ』 (http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shotou/110/houkoku/1380531.htm) 山内豊(2016-2017)「どうなる? 教科書のデジタル化」『英語教育』(2016年4月号~2017年2月号,隔月連載)大修館書店 ※この原稿は東書教育シリーズ『中学校外国語新学習指導要領を読み解く―6つの観点で考えるこれからの学び―』(東京書籍,2017)に掲載されたものです。 関連リンク 中学校外国語新学習指導要領を読み解く 【総論】新しい学習指導要領のねらい 【観点①:英語で授業】「やり取り」と「英語で授業」で深い学びを実現 【観点②:CAN-DO】CAN-DOリストによる目標と評価 —授業改善のために 【観点③:小中連携】目標の一貫性,指導内容の系統性,指導法の継続 【観点④:文,文構造及び文法事項】コミュニケーションにおける活用のための文法指導 【観点⑤:語彙】新学習指導要領における語彙指導の考え方 【観点⑥:デジタル】新教育課程下におけるデジタル教科書の位置付けと活用 【東書Eネット】中学校英語・中学校外国語 新学習指導要領を読み解く- 6 つの観点で考えるこれからの学び-

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