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HOME 読み物一覧 冊子「青いスピン」 作品募集 リンク お問い合わせ HOME 読み物一覧 言葉のない私たち 2024/04/12 言葉のない私わたしたち 桜さくら井いかな 物語 入選作品 佳作  小お川がわさんが、教室の窓まどを割わったらしい。  ひと昔前の歌か詞しに出てくるような事じ件けんに、みんなが度ど肝ぎもを抜ぬかれた。  しかも、小川さんはクラスでも、一、二を争う、おとなしい女の子だ。  確たしか園芸部だったはず、一人せっせと校庭の花か壇だんに水やりをしていた姿すがたしか覚えてない、というクラスメートも多いだろう。  この事件に、私は少しだけ罪ざい悪あく感かんを持っている。  というのも、彼かの女じょを傷きずつけるようなことを、ついやってしまったから。 「交こう換かん日記って何か古風でいいよね。」  アマちゃんの唐とう突とつな一言で、私とアマちゃんの交換日記は始まった。  透とう明めいな日差しが降ふりそそぐ、小学六年生の、十二月のことだった。  アマちゃんは猫ねこのように気まぐれで、気位が高く、思いやりに欠ける性せい格かくだったが、ぼんやりした私となぜか気が合った。  どうしよう。何にも思い浮うかばない。  渡わたされたウサギ柄がらのノートを前にして、私の頭は真っ白になった。心しん臓ぞうがばくばくして、学芸会の直前みたいに緊きん張ちょうした。  学校から帰るときも、ご飯を食べるときも、お風ふ呂ろに入るときも、ずっと何を書けばいいか考えていた。  だから、ご飯を食べるときぼんやりしすぎてお母さんから叱しかられたし、お風呂では長湯しすぎてまた叱られた。  そもそも宿題の感想文や日記を書くことが苦手だった。学級便りに載のったことも、ましてや表ひょう彰しょうされたことも一度もない。 「書くことなんてないよう(泣)。さっきお風呂に入って、髪かみを乾かわかしました。お母さんにショートが似に合あうって言われてるんだけど、長いほうがいいと思いませんか?」  だから三十分も机つくえでうなって、やっと初めての文字を書いたのだ。  緊張したせいか、いつもより筆ひつ圧あつが弱く、右上がりの文字になった。  それに、どうしてか分からないけど、敬けい語ごばかりの文章になってしまった。  これだけじゃ、やばいかも......。  余よ白はくがいっぱいできたので、ついでにアマちゃんの似顔絵も大きく付け加えておいた。  次の日、どきどきしながら学校でノートを渡した。私たちは交換日記の存そん在ざいがばれないように、教室の端はしにいた。掃そう除じが行き届とどいていないせいで、ほんのりほこりっぽい臭においがした。  文字数が少なくて、怒おこられないか不安だったけれど、思いのほか喜よろこんでもらえた。 「イラストすっごくかわいい! 絶ぜっ対たい、次も描かいて!」  アマちゃんの機き嫌げんがよくなったので、私もうれしかった。算数のテストのある日、アマちゃんの機嫌は最悪になる。急に無む視ししてきたり、肘ひじのぷにぷにした部分をつまんできたりするのだ。本当に、イラストを描いておいてよかった。  アマちゃんは、腕うでをくっつけて、楽しそうに好きなアイドルのライブに行った話を私に聞かせた。 「ねえ、何の話してるの?」  話の途と中ちゅうで、小川さんが割って入ってきた。誰だれだってひそひそ話をしているのを見かけたら、自分の話をされていないか不安になる。  小川さんはくぼんだ目を神しん経けい質しつそうに見開いたので、私たちは顔を合わせて意味深に笑った。焦あせっている人を見るのは純じゅん粋すいにおもしろかった。 「卒業式の話? それとも雨あま田ださんの好きなアイドルの話? 確か七人組のグループが好きなんだよね。えっと、誰が好きなの?」  小川さんはおずおずと聞いてきた。彼女には親友と呼よべるポジションの人がいなかった。もともと高たか橋はしさんというオタクの女の子と仲が良かったけれど、その高橋さんが別の人と仲良くなってしまったらしい。それで、新しい親友として、アマちゃんを狙ねらっているのを、私は気がついていた。  小川さんはちらちらっとアマちゃんの腕の中の交換日記を見やった。 「んーん。たいした話じゃないから。」  アマちゃんはいたずらっぽく笑って、肩かたをすくめた。それから腕をますますくっつけて、声を落として私に話しかけてきた。小川さんはもの欲ほしげに私たちを見ていたけれど、しばらくすると自分の席に戻もどっていった。  ちょっとかわいそうだけど、しかたない。私だって必死なのだ。あと少しの学校生活、惨みじめに過すごしたくない。惨めとは、友達がいないこと。独ひとりぼっちで過ごすことだ。  すぐに日記が戻ってくると思ったけれど、アマちゃんが学校にノートを持ってきたのは、五日後だった。 「恥はずかしいから家で読んで。」  珍めずらしく顔を赤らめながら言われたけれど、気になったので、十分休みに学校のトイレに持っていって読むことにした。  そこには、小さくてきちょうめんな字が、見ているだけで息苦しくなるくらい、びっしりと並ならんでいた。句く読とう点てんも少なくて、すさまじい熱量でアマちゃんがしゃべり散らかす様子が思い浮かんだ。  日記には、もうすぐ卒業でさみしいことや、好きな男の子のこと、漫まん画がの感想、実は詩を作っていること、小さかった頃ころの最初の記き憶おくなどが、思いつくままに書いてあった。  私の髪かみ型がたについての返事はなかった。ショートとロング、どちらがよかったのだろう。  家に帰ってから、私はまた交換日記を読んだ。  そうして、シャーペンを手にして、新しいページを埋うめた。  一回目より時間はかからなかった。  「アイラブユー!」と大きく書いて、余白をイラストで埋めたのだ。  アマちゃんが、アイドル衣い装しょうみたいにふりふりのワンピースを着ているイラストだ。  さらに華はなやかにするために、ラメ入りの星や猫のシールでデコレーションした。  私たちは、みんなにばれないよう、教室の白いカーテンにくるまって、交換日記のイラストを眺ながめていた。アマちゃんの顔とカーテンの白しか見えなくて、二人だけの世界にいるみたいだった。イラストは「うまい」と好こう評ひょうだった。  ふいにカーテンがぐっと引っ張ぱられた。お調子者の男の子が、ちょっかいをかけにきたのかもしれない。彼かれらは驚おどろくほどデリカシーを欠いているのだ。私はノートを背せ中なかに隠かくして、きっとした表ひょう情じょうを作った。  「ねえ、知ってる?」とカーテンの内側に強ごう引いんに入ってきたのは、何と小川さんだった。  私はがくぜんとした。小川さんが、ここまで空気の読めない人だとは知らなかった。アマちゃんも「信じられない」と言いたげな顔をしていた。  小川さんは、私たちの雰ふん囲い気きに気がついていないのか、顔を紅こう潮ちょうさせて話しかけてきた。 「副担たん任にんの菊きく田た先生、来月学校辞やめるんだって! 急だよね。びっくりしたから、すぐに知らせたくって......。」  私たちはしらけて顔を見合わせた。その情じょう報ほうは、半年前に手に入れていた。 「そうだよ。お父さんが亡なくなったから、実家の豆とう腐ふ屋を継つぐんだよ。創そう業ぎょう百二十年の老舗しにせだから、先生の代で終わらせたくないんだって。ちなみに結けっ婚こんの予定もあるんだよ。」  私はちょっとばかり残ざん酷こくな気分になって、先生の情報を詳くわしく伝えた。 「あっ、そうなんだ。それは知らなかった。」 「ほかに用件は?」  動どう揺ようの色を見せる小川さんに、アマちゃんが鋭するどくたずねた。 「ないよ。急にごめんね。」  小川さんは急におどおどとした態たい度どになって、カーテンから抜けていった。  いちど意地悪な気分になると、なかなか切り替かえられなくなる。  「なあに、あれ。」と言って私たちは笑った。たぶん、小川さんの耳にも届いていたと思う。  その日から、小川さんは、私たちに近づかなくなった。  潔いさぎよく休み時間は一人で過ごすようになったし、登下校も一人でしているようだった。時間を持て余あましているせいか、一日に何度も校庭の花に水をやり、とうとう枯からしてしまっていた。おかっぱ頭の後頭部と、丸まった背中からは、言いようのない哀あい愁しゅうがただよっていた。  私たちの交換日記は粛しゅく々しゅくと続いていた。アマちゃんは自分語りと自作ポエムを書き散らし、私はイラストを描いて、文章が書けないことをごまかし続けた。言葉が思いつかないことがばれたら、中身の薄うすい人間だと思われるかもしれない。  途中から、アマちゃんの一方的な感情の放出を受け止めることも、イラストを描くことも、面めん倒どうくさくなってきたけれど、終わらせたいと言う勇気もなかった。  交換日記がなくなったのは、冬休みが明けてすぐだった。  音楽室で、卒業式で歌う「蛍ほたるの光ひかり」を練習した後だった。教室へ戻ると、引き出しにしまったはずの、ノートがなくなっていたのだ。いくら探しても、教科書と文ぶん房ぼう具ぐしか出てこなかった。  私は直感的に、犯はん人にんは小川さんじゃないかと思った。小川さんを見ると、何食わぬ顔で一人席に座すわって読書していた。どこかに日記を隠したのだろうか。  別に交換日記を盗ぬすまれるくらい、痛いたくもかゆくもなかった。もう飽あきていたから。  けれど、アマちゃんのことを思うと、おなかがきりきりと痛んだ。機嫌が悪くなって、肘を引っ張ってくるかもしれない。  私はアマちゃんにノートがなくなったことを報ほう告こくした。 「ありえないんですけど! あそこにあたしの全部が書かれているんだよ! ちゃんと探したの? もう一回よく見てよ。」 「う、うん......。心当たりがあるから、探してみる。」  アマちゃんは顔を真っ赤にして、私の二の腕を引っ張った。怒っているから、痛つう覚かくのあるところを選んだのだ。  痛たたた、とつぶやきながら、私はアマちゃんに謝あやまり続けた。  小川さんのことは言えなかった。ほかの人に見られたと知ったら、もっと怒っただろうから。  小川さんがこちらを見ていた。私と目が合うと、気まずそうにそらした。  やっぱり、盗んだんだ。  タイミングを計って、小川さんに声をかけたのは放課後になってからだった。  小川さんは校庭の隅すみっこで、膝ひざを抱かかえ、枯れたパンジーを悲しそうに眺めていた。  「あのさ。」と話しかけると、小川さんは大げさにびくんと体を震ふるわせた。 「えっ? 何?」 「勘かん違ちがいしてたら悪いけど、私とアマちゃんの交換日記知らない?」 「うん、知らないけれど......。」 「じゃあ、ランドセル調べさせて。」 「ええ? ちょっとランドセルは、その、ごめん無理。」  小川さんはランドセルを引き寄よせて、警けい戒かいしている小動物みたいに私を見上げた。 「貸かしなって。」 「やめて。」  私は小川さんを押おしのけて、無理やりランドセルを開いた。塾じゅくにでも通っているのか、学校に関係ない教材も入っていて、ぱんぱんに膨ふくれあがっていた。 「ほら、やっぱりあった。」  私は水み戸と黄こう門もんみたいにウサギ柄のノートをかざした。 「......ごめんなさい。」 「どうしてこんなことしたの?」  小川さんの黒目が泳いで、ぶわりと涙なみだが膨れあがった。 「えと、その、あの、ええと。」  泣きながら「えと」「その」を繰くり返されているうちに、私はどうでもよくなってしまった。  「もういいよ。」と乱らん暴ぼうに言葉をさえぎった。 「もうしないでね。」 「うん、絶対にしません。」  三日後、体育の授じゅ業ぎょう中、小川さんは一人教室に残って、窓ガラスをたたき割ったらしい。  グラウンドから戻ると、教室の入口に黄色のテープが貼はられてあって、中に入れなくなっていた。隣となりのクラスの女の子が唾つばを散らすように「小川さんがやったんだって。」と教えてくれた。肝かん心じんの小川さんは早そう退たいしたそうだ。  私は交換日記と今回の事件が結び付いているような気がしてならなかった。  教室は、一時的に封ふう鎖さされ、しばらく空き教室で授業を受けることになった。国語と理科の授業は、自習の時間に変わり、教室は非ひ日にち常じょうの興こう奮ふんに包まれていた。  窓が補ほ修しゅうされ、教室が元どおりになっても、小川さんは学校を休み続けた。 「思い出のある教室が、卒業式前に壊こわされて、みんな、とてもショックだったと思う。先生も、たいへん残念でした。人の口に戸は立てられないというか、誰がやったか、すごい勢いきおいでうわさが広まっているのも知っている。みんなにお願いだ。誰がやったとか、教室が壊されたとか、言いふらさないようにしてくれ。最近、一度でも過あやまちを犯おかした人は戻りにくい社会になっている。けれど、みんなはまだ小学六年生だ。小川さんを、温かく迎むかえ入れてあげよう。」  担任はそう話すと、色紙を持ってきた。  クラス一人一人に色紙は回り、励はげましとか、注意とか、許ゆるしとか、そういう言葉を書いていった。  やがて私にも順番がやってきた。  半分ほど埋められた色紙を見て、頭が真っ白になった。 「ガンバレ」  私が書いたのはそれだけだった。薄く書いた四文字は、風が吹ふけば飛んでいきそうなくらい弱々しかった。  アマちゃんは、一生懸けん命めいいろいろ書いているみたいだったけれど。  全員が書き終わると、先生は私をみんなの前で呼んだ。 「悪いけれど、小川さんの家に持っていってくれないか? こういうのは、クラスメートが来たほうがうれしいだろう。お前が小川さんと話しているの、何回か見たことがあるんだ。」  授業が終わると、私は一人で小川さんの家に向かった。  チャイムを押すと、人ひと懐なつっこそうなおばさんが出た。事情を説明すると、喜んで家にあげてくれた。おばさんはこちらが口を挟はさむ隙すきも与あたえないくらいしゃべり続けた。  小川さんは二階の子こ供ども部屋にいた。教室を破は壊かいするときにけがしたのか、手に包帯を巻まいている。ベッドの上で、青い顔をしていた。 「渡せって言われたから。」  私は色紙をさっと手渡した。 「いりません。」 「もらってくれないと、私が困こまる。」  小川さんは、無感動に色紙を眺めて、ため息をついた。  この色紙の言葉たちが、小川さんを救すくってくれないことくらい、分かっている。何の意味もない紙切れだ。みんな適てき当とうに書いたのだから。 「もう学校来ないつもり?」 「うん、春から遠くの私立に通うし、もういいかなって。」 「そうなの。」  私はどうして窓ガラスを割ったのか、聞けなかった。  実は見てしまったのだ。  交換日記のいちばん後ろのページに、見み慣なれない文字があったこと。書いては消されて、書いては消されてを繰り返したのか、文字というよりただの灰はい色いろの汚よごれみたいになっていた。  どうして私たちには、自分を語る言葉がないのだろう。誰かに聞いてほしいという気持ちはあるのに。  だから、我がの強いアマちゃんと仲良くなりたいと思ったのかもしれない。  きっと私たちの胸むねの中では、言葉にならなかった思いが、ゆっくり腐くさっている。本当に惨めなことは、独りぼっちになることじゃない。その正体に、私はうすうす気がつき始めていた。  帰り道、私はふらりと児童公園に寄った。  木の棒ぼう切きれを持って、土の地面に突つき刺さす。 「わたしはさみしい」  そう書いてみて、いや違う、と首を振ふる。アマちゃんがいたから、さみしくはなかった。木の先せん端たんで、ごしごしと消す。 「わたしはくるしい」  ちょっと近いかな? でも大げさかもしれない。またごしごし消す。 「わたしはくやしい」  「私は悔くやしい。」と口にしてみると、意外なくらいしっくりきた。  そうだ。私は悔しかった。  言葉を持っていなくて。聞いてもらえなくて。  胸の中が少しだけ軽くなった。百パーセント胸の中のもやもやを書けたわけでないけれど、なかなかいい言葉を見つけられた気がする。  この文字は明日にでも、子供の足に踏ふまれて、すぐ消えてしまうだろう。  自分だけのノートが欲しい。交換日記じゃない、私のためのノート。私が、私を救うためのノート。 「私は悔しい。私は悔しい。」  忘わすれないようにつぶやきながら、私は文房具屋に向かって歩き始めた。 桜さくら井いかな 2023年、第1回「青いスピン」作品募集 佳作。 読み物一覧へ戻る 関連作品 2024/04/12 カタメのこと 松まつ下した卓たかし 物語 入選作品 2023/06/22 自動販売機 香か久ぐ山やまゆみ 物語 入選作品 2023/05/31 第1回「青いスピン」作品募集 結果発表 お知らせ 2023/10/02 金太の花 おぎなお紺こん 物語 入選作品 カテゴリー 物語 (14) エッセー (10) 科学エッセー (4) 随筆 (5) イラストエッセー (5) ノンフィクション (4) コラム (9) お知らせ (3) 入選 (3)佳作 (2) 掲けい載さい号 第4号 2024年,4月号 第3号 2023年,9月号 第2号 2023年,4月号 創刊号 2022,9月号 創刊準備号 2022,4月号 人気の作品ランキング HOME 読み物一覧 冊子「青いスピン」 作品募集 リンク お問い合わせ プライバシーポリシー 本サイトに掲載している文章・イラスト・記事画像の無断転載を禁じます。 Copyright © 2022 by TOKYO SHOSEKI CO., LTD. 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